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2021.6.8
ひとり親家庭で育った僕が明石市の養育費の検討委員をやって感じたこと

普段は大阪でひとり親家庭の子どもたちをサポートするNPOの代表をやっている僕ですが、他にもいくつか肩書きをいただいています。

 

・公益財団法人あすのば 評議員

・NPO法人ブレーンヒューマニティー 理事

・NPO法人edge 理事

 

ありがたいことにこうした様々な機会をいただくことができているのですが、今回はその中の一つである明石市の養育費の検討委員をやって感じたことを書こうと思います。

目を疑ったスマホの画面

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2019年の夏頃だったと思うのですが、僕のスマホが鳴りました。「誰からの電話だろう?」と思いスマホを見ると、「明石市長」というありえない4文字が。

 

そもそも自分の携帯に明石市長の電話番号が登録されていたことに驚き、そもそも過去の自分はどうやって明石市長の携帯番号をゲットしたのかに悩み、そんなことより鳴ってる電話に出なければと冷静になり、通話のボタンを押しました。

 

「もしもし、明石市長の泉です」

 

電話の向こうには本物の市長が。いや、それはそうだ。

もしこれがいたずら電話だったら、僕はもう2度と電話に出れなくなります(笑)。

 

そしてそのお電話で養育費の検討会の委員の打診をされ、僕でよければ喜んで受けますということで、委員になることが決まりました。

 

そんなわけで僕は検討委員を引き受けたわけですが、他の検討委員の方のお名前を見て、受けたことを若干後悔します。

 

【委員一覧】

棚村政行 氏(早稲田大学法学学術院教授)<会長>

神原文子 氏(社会学者)

津久井進 氏(弁護士)

赤石千衣子 氏(認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長)

山口惠美子 氏(元家庭裁判所調査官・臨床心理士)

 

こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、僕だけ一回り近く年齢が離れています。

知識も経験も圧倒的に不足している中で果たして役に立てるのか・・・?と、いきなり不安になったことを覚えています。

 

「司法は僕らを守ってくれないんですか?」

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そして第1回目の検討会の日がやってきます。まだコロナのコの字も出てない2019年10月でした。

 

事前にいただいた資料に目を通したり、明石市が新たに養育費に関する取組を始めようとしていることを報じた報道を見たり、様々な情報を入れる中でどうにも気になることがありました。

 

「自治体としての範囲を超えているのではないか」

 

「行政が民事に介入していいのか」

 

こうした疑問の声を何度か目にしたのですが、「そこ?」って思っちゃったんです。

 

僕が法律の専門家であればもしかしたらこのような感想を持ったのかもしれませんが、当事者で育った僕からすると「そんなことはどうでもよくない?」と思ってしまいました。

 

先進国の中でもトップクラスにひとり親家庭の貧困率が高い国で、その要因の一つである養育費の問題をなんとかしようとしてくれている。

 

それも国の動きを待っていては遅いということで、まずは先陣を切って一歩を踏み出そうとしてくれている。

なのにこうした声が出てきてしまう。どれだけこの国はひとり親家庭に優しくないんだろう・・・と思ってしまいました。

 

そうして僕の中に「なんで?」が溜まっていった結果、見出しに書いた「司法は僕らを守ってくれないんですか?」という発言に繋がります。

 

なんだかなぁと思う部分はありましたが、それでも無事に明石市では養育費に関するサポートが始まることになりました。

特に養育費の立替払については本当に大きな一歩だと思います。

 

「子どもの権利」を守れているのだろうか?

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コロナで検討会もしばらくない期間がありましたが、オンラインでの開催もあり何度も議論を重ねてきました。

そして先日の検討会を持って、ひとまず一区切り。

 

最後の検討会では今回行った事業のその時点での結果についての報告がありました。詳しい内容は現在報告書がまとめられているのでそちらにお願いをするとして、その報告を聞かせていただく中で感じたことをここでは書きます。

 

養育費は子どもの権利であると言われますが、その権利が守られているとは言い難い、というのが僕が今回一番感じたことです。

 

例えば今回明石市が行った養育費の取り決めの支援や立替払いの制度は、保護者である大人が手続きをします。

 

子どもの年齢が小さければ保護者が手続きをするしかありませんが、子どもが中学生、高校生になってくれば、本人の意思があれば子ども自身が手続きをするという形があってもいいんじゃないかと個人的には思うんですね。

 

子どもの権利と言うくらいですから、子ども自身がその権利を行使できる仕組みは必要だと考えています。

 

今回の検討会の中でも報告があったのですが、中には元配偶者の方に連絡がいくならちょっと・・・ということで制度の利用を諦めた方もおられたようなんですね。

 

保護者の方のそうしたお気持ちは十分に配慮されるべきものだと思うのですが、だからと言って子どもの権利である養育費を受け取るのが保護者の意思によって決まってしまうというのは違うんじゃないかなぁという思いがあります。

 

今回の明石市の制度で言えば、1ヶ月分の養育費を上限5万円まで立て替えますというのものでした。

 

5万円あれば、例えば中学3年生や高校3年生であれば受験校を1校増やすことができます。保護者に負担をかけたくないと諦めていたことを、もしかすると諦めなくてよくなったかもしれません。

 

とはいえ「保護者がんばれ」ではあまりにも暴力的なので、保護者のそうした気持ちも守られて、かつ、子どもの元にきちんと養育費が届くような仕組みを社会全体で考えていかなければなりません。

 

払わない人を罰するだけでいいの?

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もう一つ。養育費のことを考える際に僕が嫌なのが「払って当たり前」みたいな空気です。

子どもの権利だからもちろん「払って当たり前」なんですが、あの攻撃的な空気が嫌なんです。

 

別に過度に評価しろとは言いませんが、きちんと養育費を支払ってくれている方を認めるような空気もすごく大事だと思うんです。

 

養育費を受け取れていない人の声が目立ってしまうのが現状ですが、養育費を受け取れて、支払ってくれている元親に対して感謝をしている子どもの声がもっともっと世の中に発信されていくのも大事。

 

そして養育費を支払ってくれている側がどんな思いを込めているのか、子どもからの声を聞いてどう思うのかといった声を発信していくことも必要だと思います。

 

養育費は支払って/受け取れて当たり前かもしれませんが、その当たり前をきちんと継続できていることはもっともっと温かい評価を受けていいんじゃないでしょうか?

 

養育費を払う大人ってかっこいい、とまでいくと行き過ぎかもしれませんが、それぐらいの空気の方が個人的には好きです^^

さいごに

手を繋ぐイメージ

 

長々と書いてきましたが、以上が僕が明石市の養育費の検討委員をやらせていただいて感じたことです。

 

今後は今回明石市で取り組まれたような養育費の立替払いのような制度が、諸外国のように国によって法制度化されていくことが大事です。

 

それと同じくらい、社会の空気感を作っていくことも大事です。「君の権利を大人は全力で守るからね!」と言ってくれる大人が子どもの身近に溢れるような社会になることも、制度化と同じくらい大事。

 

制度ができることは大事ですが、ここを抜きにしちゃうと僕らが目指す社会には近づかない気がしています。

制度はできたけど「自分には関係ないから」と思う人が多い社会って、僕はいやです・・・。

 

法律を動かすなんてことは一人一人にはできないことかもしれませんが、自分ごとにして考えを深めていったり、周りの誰かに話をしてみることはできます。

 

そういうことの積み重ねが大事だと思うので、僕は僕で、日々自分たちが子どもたちのサポートを行う地域において「空気を作る」ということに取り組んでいこうと思います!

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

もし「もっとひとり親家庭の置かれている状況や、取り巻く問題について理解を深めたい」という方がおられましたら、6月21日にオンラインで開催する「ひとり親家庭の子どもたちを取り巻く問題」について理解を深める活動説明会にぜひお越しください^^

 

当日も僕が話をさせていただきます!