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お知らせ

渡のお話
2020.2.6
病院が取り組む困難な家庭へのサポート

長野県飯田市にある「健和会病院」。
この病院では、医療行為以外にも様々な形で困難を抱える家族のサポートをされています。

ひとり親家庭の親子が安心して暮らせる街にはこんな病院が必要なんだろうなと思い、その取り組みの詳細や取り組まれている人の思いを聞くために渡が現地に伺い、小児科外来診察室で取材をしてきました。

<貧困かどうかに関係なく、誰でも使えるサポートを>

渡:まずは、こちらの病院で行われている様々な取り組みについての詳細を教えていただけますか?

和田先生(以下、和):まずは見てもらいましょうか。
(診療室から小児科受付に移動し)あそこにあるのはお米ですね。
そのままだと持って帰れないので、普段は小分けにしてます。

(診療室の入り口横に移動し、そこにあるハンガーラックを指して)これは「卒園式に着ていくのにいいようなちょっといい服、ちょっといい靴」のレンタルをやってるんです。

もともと職員から寄せられた衣類を必要な親子に提供するのは、2015年からやっていて、看護師や事務職員が、経済的に苦しい状況にあるような家族を知っているので、診療に来た時に「お姉ちゃんに合いそうな服があるからちょっと見ていって」って声をかけて、スタッフルームにおいてあるのを出してきて、よさそうなのを持って行ってもらうという形だったんです。

でも、ここにおいておけば、診察を待つ人がみんな見てくれるしいいんじゃないかってことで、スタッフが相談して、去年の2月頃に僕が知らないうちに始まっていたんです(笑)。

卒園式くらい、いい服着せてあげたいけどとてもそんな余裕はないし、もし頑張っていい服買ってあげてもすぐ小さくなっちゃうからもったいないですよね。

経済的に苦しい家庭じゃなくても、誰でもご利用くださいという形にしています。
その方が経済的に大変なおうちも利用しやすいと思うんです。

卒園式って日程が重なるのでその辺の大変さはあるんですけど。
卒園式以外でも発表会とか、そういう時に借りていかれたりするんですね。

次の診察を待つ人が、みんなそれ(レンタル用のお洋服がかかったラック)を見ているので、「うちにもあるから使って」と持ってきてくれる人もいます。

衣類の提供を始めたきっかけは2015年に、あるお母さんが看護師さんに「娘が今度中学校に入るんだけど制服が高くて・・・」って話をしたことです。

うちの小児科外来では、気になる親子がいたら診察終了後の昼休みに週に2〜3回カンファレンスをやるんですが、そこでこの話題が出て、「その中学校だったら、うちの職員にいっぱいいるから、聞いたら制服があるかもしれないね」って話になったんです。

病院の朝会で看護師さんが「○○中学の制服、背格好はこのくらいなんだけど、もし余ってたらください」って言ったら、さっそく翌日ある看護師さんが「着てくれる子がいるなら使って!」と持ってきてくれたんです。

セーラー服って、取っておいて使うわけでもないけど、使わないからって捨てるもんでもないんですね。
それがきっかけで、スタッフが患者さんと話をしてると「こういうのがあると助かる」という話がいろいろ出てくるようになったんです。

いろんな衣類とか、学用品とか。習字セットなんて大して使わないから綺麗なままおしいれにしまってあったり、リコーダーとかもそうですね。
それを職員に呼びかけると大体揃うんですよ。

<何気ないやりとりで見えてくる困難に気づく>

和:別の親子の話ですが、風邪で診療に来られた方がいて、一見普通のご家庭だったんですが、受付でお母さんの携帯番号を確認したら「今止められてるんです」っていうので「どうしたんですか?」と聞いたら、「お金がなくて、今夜食べるお米がありません」というんです。

お母さんは介護のお仕事をされていたんですが、自分の職場で利用者さんに出したお昼のうどんの残りをもらってきて、それをみんなで食べたりしていますって話で。

その時は、診察の後で看護師さんと事務のスタッフとで、お米とちょっとした食料を隣のスーパーで買って家まで届けに行きました。

他にもそういう人っているんじゃないかって気持ちで聞いてると「お米があると助かる」って声は結構聞こえてきたんです。

うちは職員の実家が農家というところが結構あって、古米だったらタダでであげるよとか安くしとくよって言ってくれたりするんです。

「今夜のお米ないんです」っていう時にすぐあげられた方がいいよねってことで、お米は常に置いとくっていうことにしたんですね。

<狭い意味での医療だけでは、患者さんの命は守れない>

渡:ネットの記事で拝見したのが、窓口でのやり取りで、経済的に厳しい状況にあることがわかったお母さんと生活保護の窓口に同行したというエピソードだったのですが、これは病院ではよくあることなのでしょうか?

和:うちは民医連の病院なんですが、民医連ってご存知ですか?

全日本民主医療機関連合会の略称なんですが、そこでは昔から、生活保護の申請にケースワーカーが同行したりしていますし、「気になる患者さん訪問」といって、患者さんの家庭訪問をやっています。

民医連に加盟している病院・診療所は全国で600余り、介護関係の事業所などで1000余り。大阪にもたくさんありますよ。

渡:ということは、医療界の中ではそこまで別に珍しいアクションではないってことですか?

和:いえ、まだ少数派だと思います。民医連は昔から「狭い意味の医療を提供してるだけでは、患者さんの命と健康は守れない。社会的に生活を保障していくようなところまでやらないといけない」と考えていて、社会保障の改善運動もやってます。

また、うちの小児科は病院の中なんだけど、他の科とは場所も離れていて、入り口も別で、受付や会計も小児科でやるんですね。

病院の中だけどクリニックみたいになっていて、スタッフも固定しているので「あのお母さんのことだけど・・・」と言えばみんなわかるんですね。
だから、比較的患者さんの背景が見えやすい形になってると思います。

渡:ここまでのお話を聞くだけでもめちゃくちゃすごいなと思うんですけれども、何でこちらの病院ではそういう取り組みが可能になっているんでしょうか?

和:民医連自体がそういうことを昔から取り組んできたっていうことがあるので、その延長上のことではあるんですね。

とはいえ、最初はとにかく貧困が見えなかったんですよ。
僕自身が2009年頃から子どもの貧困問題に取り組み始めた時点では。

僕は昔から、小児科医として、ただ身体的な病気を治すだけじゃなく、心のこと、家族とか社会的なことも含めて親子の抱えている困難さもちゃんとわかった上で治療に取り組んでいきたいとは思ってました。

7人に1人が貧困だったら、絶対僕の患者さんの中にいるはずだけど、見えない。
どうしたらそれが見えるようになるんだろうかと考えて色々やってきて、見え始めるとだんだん見えてきたんですね。

<敷居の低い支援で、無理なく続ける>

こういう町の小児科って、子どもについてのよろず相談所的な存在であるべきだと思うんですね。

子どものことで困ってるんだけど、どこに相談していいかわからないというお母さんは大勢います。
そんな人たちに対して「まずは相談に乗りますよ」というスタンスでいたいと思うんです。

そうやってると、よく診療に来る人たちの中に貧困を抱えてる人たちがいっぱいいて、こんなことで困ってるって言われたときに、僕らに何かしてあげられることがあればやるよという感じで物資支援などはやっています。

フードバンクとか子ども食堂とかいろんな支援が行われていますが「貧困だと思われるから子ども食堂に行くなってお父さんに言われる」といった話はけっこうありますね。

そういう意味では、風邪で病院に行ったついでにお米ももらってきたというのは、とても敷居の低い支援になると思います。

うちでも子ども食堂というか、勉強を一緒にやって夕飯食べてというのも、病院からちょっと離れたところで月2回やってるんですけど、それは3〜4家族ぐらいのこじんまりしたものです。

子ども食堂をやり始めたけれど、結構大変になってるところもありますよね。
月2回といってもそこにかけるエネルギーってかなり必要で、だんだんしんどくなってきているような。
そういう意味ではうちは基本無理してないんです。

例えばお米であればただ置いといて、必要そうな人が来た時に「今日はお米持ってく?」って声をかける。
洋服で言えば「あれ借りられますか?」「どうぞ」っていうくらい。

そういう関係の中でスタッフが「他にも何かいるものあります?」みたいなことを聞いて、「実はこんなことで今困ってる」といったことがあれば、じゃあそれに対してどうしようかってことを考えてやっています。

「子ども食堂は大人食堂になっていないか」という議論がありました。
大人のイメージで進めてしまって、当事者のニーズに合っていないということは、ありそうなことだなと思うのです。

大事なのは、目の前の親子が何を必要としているのかということであって、医療機関と患者さんは、診療を通じて信頼関係を作ることができるので、その上に立ってニーズを把握することが可能だと思います。